茨城国体がすべてを変えた! スポーツの名門、水戸啓明高等学校でeスポーツが始動 –

 愛知の小牧工業高校、大阪の英風女子高等専修学校に続き、高校eスポーツ部の取材は今年3校目を迎えた。

 今回お送りするのは、茨城県の水戸啓明高等学校だ。水戸啓明高校のeスポーツ部の特徴は、なんと言っても顧問の熱血協力体制だ。学校の情報管理部部長でもある顧問が校内のPCをカスタマイズし、「LoL」のプレイ環境を生み出している。その風景がとても興味深いので、ぜひご覧いただきたい。

水戸啓明高等学校 CREATE Lab. team e-Sports

上段左より、髙田健市教諭、立原広翔(1年)、近藤優輝(1年)、横田凌也(1年)、庄司晴喜(1年)、木村汐惟(1年)、下段左から、鈴木大翔(1年)、中野悠馬(1年)、木村賢汰(1年)、松井舜(1年)、瀧澤慎太郎(1年)、富澤陽斗(1年)

発足:2020年10月~
人数:11名
競技種目:リーグ・オブ・レジェンド
リーダー:松井舜さん(1年生)

主な実績:
特になし

スポーツの名門にeスポーツはどう受け入れられたのか?

 水戸啓明高等学校は、柔道部や全国クラスの運動部を複数抱えているスポーツ強豪校として知られている。2012年までは水戸短期大学附属高等学校の名称であり、卒業生には広島東洋カープで活躍する會澤翼選手もいる。

 JR水戸駅からバスで15分ほどで揺られると、学校に到着する。近くには千波湖や偕楽園といった広大さが特徴的な観光名所もあり、校舎は広々、伸び伸びといった言葉がよく似合う印象だ。

校舎がいくつもあり、とにかく「広い」という印象の水戸啓明高等学校

 スポーツの名門である水戸啓明高校において、eスポーツは文化部のひとつ「CREATE Lab.」で行なわれている。

 CREATE Lab.は、基本的にはPCを活用した様々な活動をする部活。ただし活動は限定的にせず、その場にいる生徒が「やりたい」と声を挙げたものについて、全力で打ち込めるような柔軟さを有している。

 2014年に発足した当初は学校の行事用に動画の編集などを行なっていたが、その後は生徒の希望からDTM制作や音響機材のオペレーションも実施している。音響に関してはプロ級の機材を揃え、学校行事での音響管理が生徒たちに一任されたこともある。

 そしてまた世代が変わり、新たにCREATE Lab.の取り組みとして浮上してきたのがeスポーツ、というわけだ。顧問を務めるのは、髙田健市先生。CREATE Lab.の発足に携わり、コンセプトとネーミングを考案したアイデアマンだ。しかし、髙田先生自身はeスポーツそのものにあまりいいイメージを持っていなかったという。

髙田健市先生。情報管理部部長 情報科主任という肩書を持つ。先生自身も水戸啓明高校出身だそう

 「そもそもゲームを部活にすることに抵抗感があった」と髙田先生は話す。ゲームは”ひとりで楽しむもの”で、しかも体を動かさないものをスポーツとは呼べない。そんな思い込みが髙田先生の中にはあったという。そのため過去に生徒からeスポーツ活動の希望が上がっても、なかなかスタートに踏み切れなかった。

 その風向きが変わったのが、2019年に開催された「いきいき茨城ゆめ国体」の文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」だ。まさに茨城県、地元での開催であり、eスポーツが広く世の中に知られた大会だ。

 さらに水戸市の市議に水戸啓明高校の卒業生がいたことがきっかけで、市議やeスポーツ関連企業などからeスポーツにかける熱意を聞く機会もあった。eスポーツにネガティブな印象を持っていたのは髙田先生だけではなかったそうだが、その話を聞いて学校側の持つeスポーツのイメージがどんどん変わっていった。

 特に大きかったのは、「大会に採用されているタイトルはチーム戦のものが多く、コミュニケーションスキルがないと戦術がまとまらない」点。その中で切磋琢磨しながら技術を磨き、チーム全体の戦力を高めていく。髙田先生はバレーボール部の顧問も務めているが、協調性が養われる点では「eスポーツも他の部活と一緒だ」と気づいたそうだ。

 髙田先生のなかで整理がつき、さらに市議からの強いeスポーツ部創設の提案もあり、いよいよCREATE Lab.でeスポーツ活動がはじまることとなる。

髙田先生、環境整備にいきなり本気を出す

 新型コロナウイルスの影響でteam e-Sportsスタートの準備が整ったのは9月のこと。しかし面白いのは、やるとなったら髙田先生がいきなり本気を出し始めるところだ。

 ゲーミングPCはサードウェーブの高校eスポーツ部支援プログラムを利用して3台レンタルしているが、エントリーしているのは「リーグ・オブ・レジェンド」。少なくとも練習にはもう2台必要なのだが、こちらは髙田先生が学校のPCをカスタマイズ(GPUの新調やメモリの増設)する形で揃えた。情報管理部部長の髙田先生には自作PCの知識があり、すぐに役立てたそうだ。

team e-Sportsの練習風景。新型コロナウイルスの影響でリモートによる授業が増え、これに伴って学校のインターネット回線が増強されたそう。team e-Sportsにとっては渡りに船となった

 team e-Sports発足に集まったのは、1年生が11名(うち1人はプログラミングをする「team プログラミング」所属)。となるとエントリーは2チームになるのだが、髙田先生は学校のPCを利用してさらに5台を用意した。つまりteam e-Sportsには合計10台のPCがあり、部内で対戦できる環境が整っていることになる。

 惜しいのは、学校にあるPCはかなりの旧型であるため、低スペックでも動くことで有名な「LoL」をもってしてもプレイがやや厳しめなこと。カスタマイズ未完了の5台は”動くことは動くがカクつきがひどい”状態となっていて、この点は髙田先生も今後の改善点だとした。

GALLERIAの中に、先生によるカスタマイズPCが混じっている。CPUにCore i5を積んでいたPCを利用したそう

こちらはモニターも含めてほぼ学校の備品そのままのマシン。動くことは動くが、かなりカクつくのでプレイはしづらそうだった。CPUはCore i3相当とのことなので、メモリの問題かなと予測する

 「LoL」のプレイ歴については、全員が初心者となる。リーダーの松井舜さん、副リーダーを務める瀧澤慎太郎さんはMOBA自体には触れていたが、「LoL」はまだ始めたばかり。ただ、瀧澤さんはジャンルへの理解が最もあるということで、部内の「ゲームリーダー」を任されている。部にはPCでゲームをやること自体が初めてのメンバーもいるので、様々な面で瀧澤さんがリードしながら、瀧澤さん自身も「LoL」を特訓中だ。

 松井さんは中学校では剣道部に所属していたが、「LoL」が部活になっても違和感がないという。「『LoL』のつくりもあるが、真剣に、情熱を持って打ち込めるところはまったく一緒」と感じている。チーム全体のモチベーションも高く、やりがいがあるそうだ。

左から、副リーダーの瀧澤慎太郎さん(1年生)、リーダーの松井舜さん(1年生)

 活動は週2日、水曜日と土曜日に行なっている。そうでない日も、Discordで連絡を取り合って一緒に練習することもある。一方で自宅にゲーミングPCがない生徒もおり、その場合はプレイ動画を見たりスマホ用の「リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト」をプレイすることで感覚を養っているそうだ。

 取材した日はちょうど全員が集まっていて、チームで初めて5対5の練習試合が実施された。レーン担当はどうする、チャンピオンはどうすると話し合いながら、楽しく前向きに取り組んでいた。思いがけないアクシデントに笑いが起きたり、時折相手の戦術に口を出して茶化したりもしながら、目線そのものは真剣な姿が印象的だった。

 オンラインでの対人戦となると、初心者チームでは実力が圧倒的に足りずに練習にならないことが多くあるが、学内で対戦できるならより効率的に高め合うことができる。「専用の設備がある」という強みは、部活動を経験した方なら大きくうなずけるポイントではないだろうか。

5対5で対戦するチームメンバー。この風景を実現できているeスポーツ部はなかなかないのではないかと思う

手前の未カスタマイズPC組も奮起。環境はよくないが、確実にキルを取るなどむしろ攻めていた。プレイ環境がさらに整えば、設備の強みはより大きな意味を持ってきそうだ

 スペック的にやや不満があるとしても、思ったときに対戦できる環境を整えられたことはチームにとってかなりのメリットとなる。実力が近い同士の方が課題は見えやすいし、何より全体でひとつの試合に集中することで部に一体感が出る。チームのレベル向上を考えて真っ先に環境をつくった、髙田先生のナイスプレイと言えるだろう。

 生徒たちはそれぞれで個人スキルを鍛えたり戦略を練る一方で、髙田先生は高校eスポーツ部支援プログラムがサポートする「LoL」の講習会にも参加しようかと考えている。高校eスポーツ部支援プログラムには参加校専用のDiscordサーバーがあり、その一環でプロ選手による「LoL」講義が近く実施されるという。Discordでは他のeスポーツ部の動向も知れるため、創設間もない部には特に役立つ存在だそうだ。

 環境と生徒のモチベーションを見るに、伸びしろ十分といったところの水戸啓明高校team e-Sports。瀧澤さんは第3回全国高校eスポーツ選手権に向けて「まずは1勝」を目論んでいるそうだが、予選までにどこまで実力を伸ばせるかが勝負どころだろう。顧問の献身的な環境サポートを受けてメンバーがどこまで飛躍するか。こちらも期待だ。

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