高齢者の健康維持にeスポーツを。神戸市が高齢者向けeスポーツ実証事業を発表。まずは「銀星囲碁」や「グランツーリスモSPORT」から


 神戸市は2020年12月3日,同市主催による「高齢者向けeスポーツ実証事業に関する広報官会見」を,同市市役所の1号館で開催した。この模様はオンラインでも中継され,ゲームを活用した,高齢者の「フレイル(虚弱)」予防コミュニケーション推進についての発表が行われたので,その模様をレポートする。

 今回の発表の主旨は,高齢者が「フレイル」状態となるのを防ぐために,クラウドゲームサービスやオンラインツールを利用しようというもの。その実証事業が,神戸市はNTT西日本との連携により,12月4日に開始されるという。
 ではフレイルとは何かといえば,健康な状態と要介護な状態の中間を指した言葉だそうで,年齢による衰えで認知機能や身体能力といった心身の活力が低下した状態を指している。フレイル状態は放っておくと要介護になってしまうが,早めに適切な対応を取れば健康状態に戻れる可能性があるそうで,これにゲームを活用しようというわけだ。

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 このフレイルという概念は2014年に提唱されたもので,とくに新しい概念ではないものの,予防するにあたって新型コロナウイルス感染症の影響は大きいという。外出の自粛などで社会活動や家族との交流が阻害され,高齢者がフレイル状態に陥るリスクは,昨今非常に高まっている。
 神戸市はかねてより「withコロナ」状況でのeスポーツ活用を提唱しており,2020年7月には「withコロナ時代におけるeスポーツによる地域課題解決に向けた連携協定」を発表(関連記事)。神戸市とNTT西日本,PACkageの官民一体でプロジェクトを推進し,「高齢者や子ども等向けのeスポーツを活用した実証事業の実施とその効果検証」を発表している。そして,その最初の事例が今回のフレイル予防となる。

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写真左から,神戸市企画調整局つなぐラボ 特命係長 長井伸晃氏,NTT西日本 兵庫支店長 川副和宏 氏,Rehab for JAPAN 代表取締役社長 大久保 亮氏
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eスポーツでフレイル予防

 eスポーツ実証事業が行われるのは,スミリンケアライフの老人ホームと,PLASTのデイサービス施設,および同社が行う訪問看護とのこと。老人ホームの共有スペースや,施設でのプログラム,そして利用者の自宅でeスポーツが体験できるという。

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 実証事業は「慣れる」「楽しむ」「活かす」の3ステップが予定されている。
 2020年12月〜2021年1月に実施される「慣れる」では,施設への環境整備やタイトル選定,また高齢者限定eスポーツ施設「ISR e-Sports」利用者による体験談セミナーや体験イベントが行われる。また2021年1月〜3月の「楽しむ」においては,利用者・施設間でのプレイや,デイサービスでの体験プログラムといった取り組みを展開。さらに2021年度中には,これらの結果を踏まえてタイトルの追加や体験方法の見直しが行われるとしている。

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 eスポーツを楽しむに当たっては,高価なパソコンやゲーム機を購入しなければならない初期コストが問題になりがちだが,今回の実証事業ではクラウドゲームサービスが用いることでこれを回避。ゲーム自体はNTT西日本が持つサーバーで実行され,映像データのストリーミングでプレイするため,安価なパソコンやタブレットで利用できるとしている。

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 対象となるゲームタイトルでは,eスポーツやビデオゲームに馴染みが薄い高齢者の利用を考慮したセレクトが行われる。「銀星囲碁 ハイブリッドモンテカルロ」などのボードゲームや,車の運転をテーマとした「グランツーリスモSPORT」といった分かりやすいものからスタートし,街中で戦う「ANARCUTE」や,横スクロールシューティング「R-TYPE LEO」など,操作が簡単なものにステップアップ。最終的には落ちものパズルや格闘ゲーム,FPSなど,より複雑なものも対象になるそうだ。

例として挙げられたタイトルには1人用ゲームが含まれているが,これはeスポーツとして対戦をする前に操作に慣れておくという意味合いだろう
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 こうした取り組みの結果は,睡眠マットセンサーやウェアラブルデバイス,問診チェックなどで収集され,ゲームタイトルの追加や,最適な検証環境の検討などが行われていくとのこと。気になるのは,暴力的な表現が高齢者にどういった影響を及ぼすかだが,NTT西日本の川副氏曰く,こうした非現実的な要素がeスポーツにおける楽しみの一つなので,あまりネガティブには捉えていないと語っていた。
 また,果たして高齢者がゲームの操作を習得できるかといった懸念については,前述したISR e-Sportsに訪れた80歳女性の例を挙げ,問題視していないと話していた。彼女は最初マウスの使い方も分からない状態だったが,しばらくすると問題なく操作できるようになったとのことである。

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 また新型コロナ禍における高齢者のケアについては,Rehab for JAPANのオンライン会話ツール「リハブコール」を用い,フレイル予防に役立てる取り組みについて解説が行われた。リハブコールは簡単操作かつアプリダウンロード不要で使えるツールだそうで,これを利用してデイサービス職員との面談,さらには「オンライン体操」を行う予定だという。体操のプログラムにオンラインで参加するという,この取り組みは一般的なオンライン会議ツールと同様,お互いの様子がカメラで分かるため,正しい指導を受けられる。さらには馴染みのスタッフや仲間の顔を見ることで,モチベーションがアップする効能があるのだとか。
 こちらのテストはPLASTが運営する「リハビリモンスター神戸」を対象に,2020年12月4〜31日に行われる予定だ。リハブコール自体は有償化が検討されているものの,費用は検討中とのことだった。

 なお2021年度以降は,地域福祉センターなどでセミナーや体験会を展開し,フレイル予防に加え,デジタルツールやオンラインの活用によるNPOの活性化を促進。さらには地域での新たなビジネスの創出につなげていきたいとのビジョンも語られた。

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 withコロナ状況下では,オンライン会議をはじめ,より積極的にデジタルシフトが進んでいる状況だが,高齢者ケアにゲームを活用するアイデアには驚かされるものがある。同市の実証事業がどのような成果を生み出すかに注目したいところだ。

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