学校の変革にeスポーツがリンク! 愛知県立小牧工業高等学校が紡ぐ新たな伝統 –

 今年も全国高校eスポーツ選手権の季節がやってきた。2020年は新型コロナウイルスの影響もあり、少なくとも昨年とまったく同じ状況での開催はなさそうだと覚悟していたが、予選から決勝までをオンラインに切り替えることで第3回の開催が実現することとなった。

 GAME Watchでは昨年、全国高校eスポーツ選手権の予選に出場する全国4校を取材した。「ゲームを部活にする」という今までにない文化が全国の高校でどう広がっているのかを知る機会となったのだが、生徒の熱い希望があったり、教育としての可能性を見出す学校があったり、それぞれまったく違う背景があることに強い興味を惹かれた。

 そこで今年も、全国津々浦々の第3回高校eスポーツ選手権出場校を取材してきたので、こちらの模様をお伝えしたい。まずお届けするのは、愛知県立小牧工業高等学校だ。同校では、まさに変わりつつある学校の体制とeスポーツをリンクさせることで、新たな伝統をこれから生み出そうとしている。さらに力強く広がっていくeスポーツの多様性をぜひご覧いただきたい。

愛知県立小牧工業高等学校 コンピューター制御部 eスポーツ班

左より、橋本粋人(1年)、元村拓皆(1年)、松岡涼(2年)、松岡仁紀(2年)、山方遼真(2年)

発足:2020年7月~
人数:6名
競技種目:ロケットリーグ
リーダー:松岡涼さん(2年生)

主な実績:
なし(第3回全国高校eスポーツ選手権が最初の大会)

タイミングが重なりeスポーツ活動が一気に加速

 愛知県立小牧工業高等学校は、その名の通り愛知県小牧市にある。豊臣秀吉と徳川家康が戦った「小牧・長久手の戦い」の小牧はまさにこの地域のこと。旧石器時代からの遺跡も多く、学校から少し歩くと古墳も見ることができる。学校は広々とした田畑に囲まれていて、取材した10月末には直に収穫を迎える稲が周囲を黄金色に染め上げていた。

周りを田畑に囲まれ、開放感のある場所に愛知県立小牧工業高等学校はある

 小牧工業高校には全日制課程が設置されていて、機械科、自動車科、航空産業科、電気科、情報技術科、化学工業科がある。愛知県といえばトヨタなどを始めとして伝統的に工業が強く、各分野でのトップメーカーが勢揃いした地域だ。小牧工業高校では主に実務を習い、卒業後は即戦力として地域の企業に就職していく生徒が多くいるそうだ。

またもうひとつ、小牧工業高校の名物として、作業服にヘルメットという特徴的な姿で演奏するマーチングバンド部がある。中京テレビ制作で同マーチングバンド部がモデルとなったTVドラマも放送されるなど、地元ではよく知られた部だそうだ

 そんな伝統のある小牧工業高校において、eスポーツ活動が行なわれているのは「コンピューター制御部」だ。コンピューター制御部は、もともとMPSステーションと呼ばれる、実際の生産現場のミニチュアのような装置を習熟するための部活となっている。

 MPSステーションは各モジュールを入れ替えたり制御方法を変えることでラインの組み換えが可能で、機械への理解や構築理論はそのまま実際の工場などの生産ラインに活かせる。さらにMPSは技能五輪国際大会メカトロニクス職種の公式競技機器ともなっていて、競技会を勝ち抜けばトヨタや日産といった日本の大手企業を始めとした世界企業との対戦にもつながる。ある意味で、“自らの技術を高めて世界を目指す”ことの精神がコンピューター制御部では脈々と育まれているわけだ。

小牧工業高校にあるMPS装置。非常に高価で、愛知県に数台あるうちの1台とのこと。コンピューター制御部のなかでもエースクラスの生徒しか携わることができない

ラインを制御すると、運搬物の色や大きさ、高さを判別して仕分けすることなどができる。競技では当日に仕様が発表され、時間内にラインを組み替えて再設計し、その精度を競うのだそう

コンピューター制御部では、自立型のロボット制作や、プログラミングを研究するチームもいる

 コンピューター制御部にeスポーツ班が生まれたのは10月半ば。とはいえ、MPSステーションとはまったく関係ないところから話が生まれたのだそうだ。

 きっかけは今年の7月ごろ、コンピューター制御部の顧問を務める大橋一生先生がサードウェーブの高校eスポーツ部支援プログラムを偶然知ったこと。以前からアジア大会に出場するほど「フォートナイト」に打ち込んでいる生徒たちがいることは知っていて、「これは生徒のためになる」と感じて応募を決めた。

大橋一生先生

 この大橋先生の決断を後押ししたのが、小牧工業高校は2021年度より小牧工科高校へと体制を変え、情報技術科は情報デザイン科と名称を変えるタイミングだったこと。機械の実習だけでなく、ウェブデザインなどより範囲の広い科目が授業に入ってくるため、従来の小牧工業高校のイメージとは違う一面を下の世代にアピールしたいとちょうど学校側は考えていた。

 そこで降って湧いたのがeスポーツの話、というわけだ。eスポーツの力を使えば、より多くの中学生が新生小牧工科高校に興味を持ち、さらには入学を考えてくれるかもしれない。タイミングが合致して、「ならばeスポーツ活動、どんどんやっていこう」と学校の方針が決まることとなる。

小牧工科高校への移行を案内するポスターが校内にあった

 タイミングの良さはさらに続き、今度は栄の名古屋パルコにある常設eスポーツ施設「コミュファ eSports Stadium NAGOYA」において、高校生を対象としたサービス「放課後eスポ部 CTG GAMING NAGOYA」が時を同じくしてスタートした。

 「コミュファ eSports Stadium NAGOYA」は中部5県で電気通信業を営む中部テレコミュニケーションが運営する施設であり、「放課後eスポ部 CTG GAMING NAGOYA」は平日の夕方から夜にかけて同施設を高校生に年間3,000円の格安で提供するサービス。ただ設備を充実させるだけでなく、元Rascal Jester選手で、現在解説者のリールベルト氏などを招待して「リーグ・オブ・レジェンド」の直接指導日を設けているなど、本格かつ実践的な活動場所となっている。

「放課後eスポ部 CTG GAMING NAGOYA」公式サイトのスクリーンショット

 小牧工業高校は地元高校であり、さらに「高校eスポーツ部支援プログラム」参加校ということで「放課後eスポ部」のオープンイベントに招待された。そのときにはeスポーツ班の部員はある程度集まっていて、参加特典として施設利用の無料パスポートが生徒に渡される。一時は部全体の活動場所としても利用し、今でも生徒の“自主練”の場所となっている。「コミュファ eSports Stadium NAGOYA」との関係ができたことで、eスポーツ活動の幅はさらに広がった。

 主な活動場所となっているコンピューター制御部の教室には、学校の回線とは別の専用光回線がeスポーツ班のために引かれている。これも、中部テレコミュニケーションに依頼することで実現できたそうだ。そうして、ようやく環境が整ったのが10月半ば。さっそく、全国高校eスポーツ選手権へ向けて練習を始めることとなる。

実践あるのみ! 今できることの精一杯を大会にぶつける

 小牧工業高校がレンタルしているゲーミングPCは3台。理想を言えば5台、一斉に「LoL」がプレイできる環境も整えたかったが、予算の都合上で無料の範囲に抑えたそうだ。現在eスポーツ班で活動しているのは6名で、第3回高校eスポーツ選手権にエントリーしているのは「ロケットリーグ」。3台のゲーミングPCを1年生チームの3名、2年生チームの3名で交代しながら使用している。

「高校eスポーツ部支援プログラム」でレンタルしているゲーミングPCは3台。青いGALLERIAのランプが強い存在感を放っている

 普段はゲーミングPCで「フォートナイト」をプレイしていたり、「Apex Legends」をプレイしている生徒もいるが、「ロケットリーグ」に関しては全員が初挑戦となる。取材したのは活動開始してまだ半月経っていないタイミングだったため「まず自分たちの何が課題かを探っている状態」と話してくれた。とにかくプレイを重ねて、ゲームの操作も含めて慣れが必要な段階である。

 2年生チームリーダーの松岡涼さんは「普段はゲームでボイスチャットをあまり使わなし、PCでゲームをやること自体が初めてで大変。ただ、ゴールを決めたときは嬉しい」と笑顔を見せる。1年生チーム副リーダーの元村拓皆さんは「いつも『Apex Legends』でボイスチャットを使い、チームで連携しているのでそこは得意。FPSと操作感覚が違うので難しいところもあるが、作戦通りに行くとスカッとする」と話してくれた。

左から、元村拓皆さん(1年生)、松岡涼さん(2年生)、山方遼真さん(2年生)

 また「フォートナイト」でアジア大会に出場していたのは2年生の山方遼真さん。2019年夏開催のキャッシュカップでアジア148位になるなど、eスポーツへの理解はかなりある。ただ、普段の感覚で部活のメンバーとプレイすると「声を大きく出しすぎてしまう」そうで、チームとしてどう歩調を合わせていくかも含めて模索している最中だそうだ。

 ちなみにメンバーに「学校で部活としてゲームをやることに違和感はあるか?」と聞いみてみたところ、元村さんは「ちょっとある」、松岡さんは「まったくない」と応えてくれた。1985年生まれの筆者世代だと「学校でゲーム」はタブーに近いところがあるのだが、その感覚も薄まりつつあるようだ。時代が進むに連れ、こうして徐々にeスポーツは文化として定着していくのだろう。

 大会に向けて「まずは1勝」を狙っている小牧工業高校チームだが、いかんせん時間がない。しかし、松岡さんは「課題をノートに書き出して戦略を練る」、山方さんは「一試合一試合の反省点をしっかり振り返る」など、限られた時間のなかで精一杯のできることをやると話してくれた。

キーボードとマウスを使った操作に慣れている生徒もいれば、初めての生徒もいる。それぞれの経験を活かしつつ、しっかり声を掛け合いながらチームをひとつにまとめている真っ最中だった

 取材中には自主的に「コミュファ eSports Stadium NAGOYA」に行って練習すると宣言する生徒もおり、それぞれが真剣に「ロケットリーグ」に向き合っている姿が印象的だった。傍から見ていても、指示や報告を出し合いながら目の前のものに打ち込む風景は完全に部活そのもの。大橋先生も、「eスポーツ班に参加して、生き生きとしている生徒が多い」と部活動としての成果を実感しているという。

 工業高校から工科高校へと学校に大きな変革が訪れようとしている中で、小牧工業高校のeスポーツ班は誕生した。eスポーツが、小牧工業高校の新たな伝統としてどう根付いていくのか。地域のeスポーツ企業との連携も含めて注目したい高校だ。

校訓は「空理空論をいやしみ 知識を筋肉にたくわえ 創造と実践の喜びを体得する」。eスポーツ班の活動風景ともしっかり合致している

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